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1-4 わたしって腐女子でしたっけ?
その後カフェを離れ、才造とのデートを続けることにした。今日は元々、ファッションビルで彼の新しい服を見て回ろうと約束していたのだ。
才造は今でも少し放っておくと身なりが疎かになりがちで、油断すればすぐクソダサいぞうに戻ってしまう。要は本人がファッションなんぞに興味がないのだ。見た目がすべてとは言わないけれど、せめて最低限の身だしなみは整えてほしい。
なので、付き合い始めてからはわたしが定期的に外観のメンテナンスをするようになった。
メンズアパレルのショップで、わたしは明るい色のタンガリーシャツを手に取って才造の体の前に当ててみた。
「これどうかなぁ。今履いてるパンツとも合うんじゃない?」
「いいね。草田さんなら何でも似合いそう。こっちのカットソーも良くない?」
「あ~、オシャレだねぇ。着回しできそうだし……って累くん、なんでついて来てんの? デートだっつってんじゃん」
しばらく経って、わたしはようやくこの状況がおかしいことに気が付いた。
「いいじゃない、混ぜてよ。僕も草田さんの服、選びたい♡」
「今カレの服を元カレと一緒に選んでるって、超カオスなんですけど……」
細かいことはあんまり気にしないタチのわたしだけど、さすがに意味が分からない。才造もはじめは何度も帰れと言っていたが、馬の耳に念仏なので、もはや風景の一部と捉えることにしたらしい。
仕方がないのでショップを何店か見て回りながら才造を着せ替え人形にして遊んだり、ついでにわたしの買い物に二人を付き合わせたり、しばらく謎の時間が過ぎた。
だいぶ歩き回ったので自販機でドリンクを買い、ベンチに座って休憩を取ることにした。
「草田さんってファッションセンスもいいなぁと思ってたんだけど、いつもこうやって莉子ちゃんが選んでたの?」
「そうだよ、今はね。昔は服もテキトーだったし、髪もボサボサで草田才造、クソダサいぞうって言われてたんだから」
「へぇ。そんなに?」
「ほらこれ見て」
わたしはスマートフォンを取り出し、累くんの前にバンッと突き出してみせた。
鳥の巣のような頭、一体どこで売っているのかと聞きたくなるような古臭いメガネをかけ、猫背で眠そうで、冴えない要素の見本市みたいな男がそこに写っている。
「これ、高校の時のさいぞー」
「えっ、これが!?」
どうだ、あわよくば幻滅してくれないかな。そんな期待を込めた。
累くんはしばらくの間、驚いたようにまじまじとそれを見つめていたが、やがて頬を緩めてニヘラッと笑った。
「この草田さんも可愛い……♡」
「マジか……逆効果だった」
「ねぇ莉子ちゃん、この写真僕にも送って?」
「え~……」
「何に使われるか分からんからやめてマジで」
ただただ真の姿を晒されただけの才造本人が、無数の縦線顔でそう訴えた。
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