Episode:1-1 対岸の多様性。

2/4
前へ
/236ページ
次へ
 この日の最後のお客様だった二人の花嫁さんたちをお見送りし、先輩スタッフたちと談笑しながら閉店作業を終えると、時計は21時近くを指していた。 「あれ、莉子ちゃんの彼氏じゃない? 待ち合わせ?」  先輩に言われて店舗の窓から外を覗くと、道路を挟んだ向かいのコンビニに入って行く男の姿が見えた。その見知ったシルエットは、確かにわたしの今カレ――才造だった。 「明日休業日だし、向こうも休み取ったって言うんで、焼き鳥でも食べに行こうってことになってて」 「え~、デートで焼き鳥ぃ? もうちょっとオシャレな店じゃなくていいの?」  先輩に少し呆れられてしまった。 「ん~……もう付き合いも長いし、あんまり気ぃ張らないところの方が楽なんですよねぇ。だいたい居酒屋とか赤提灯とか、そんな感じかな」 「もぉ、サラリーマンのおっさんじゃないんだからぁ。たまには気を張らないとマンネリしちゃうわよ」 「あははっ、気をつけます~。じゃ、お疲れ様でした~」  先輩からのアドバイスを笑って聞き流すフリをしたが、ここだけの話、わたしは内心少しだけギクリとしていた。
/236ページ

最初のコメントを投稿しよう!

77人が本棚に入れています
本棚に追加