Episode:1-1 対岸の多様性。

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 ともあれ、店を出て道路を渡り、待ち合わせ相手の元へ向かった。  コンビニの雑誌コーナーで立ち読みして待っている彼はスラッと背が高く、一見なかなかのクール系イケメンである。  店の外からガラス越しに軽く手を振ってアピールすると、彼はわたしの存在に気付き、ボーッとした顔のまま店内から出てきて軽く片手を挙げた。 「おす」 「おす」  わたしもまた片手を挙げて応えた。 「さいぞー、それTシャツの裾、入れるのか入れないのかハッキリしてよ。クソダサい。ってゆーかだらしない」 「え~……」  カーキのミリタリーシャツと黒い細身のパンツが、引き締まった身体によく似合ってはいるけど、残念ながらインナーのTシャツの裾がウエストに中途半端にインされていてだらしない。この男はいつもこんな感じなのだ。  まぁ、そういう抜けてるところが可愛いのだけど。  もそもそと仕方なさそうに着衣の乱れを直した彼と連れ立って繁華街の方へ向かい、馴染みの焼き鳥屋の暖簾をくぐった。  草田(くさだ)才造(さいぞう)、通称・クソダサいぞう。冗談みたいな名前だけど本名である。  キリッとした切れ長の目が特徴的で、パッと見、落ち着いたオトナの男という風に見えなくもない。だけどその実、ボーッとして抜けていて、あんまり何も考えていない男である。  香ばしい炭の香りに食欲をそそられながら、そんな才造とカウンターに並んで座り、ひな皮、ねぎま、豚精、ハツ、砂肝、そして生ビールと、だいたいいつもと同じメニューを注文した。それをつまみながら、他愛のない会話を交わす。  ボソボソとした喋り方をする才造は、大人数で集まるとおとなしい方だけど、無口というほどでもない。  二人っきりだとわたしの方がよく喋るけど、くだらない話も目を見ながら聞いてくれたり、短いながらも時々コメントを挟んだり、フフッと笑ったり、それなりの反応がある。高校時代の同級生ということもあって共通の友人も多く、話題に困るということもない。  この日は才造の仕事の愚痴をわたしが聞いた。才造は入社2年目のシステムエンジニアだ。
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