やっぱり遠い存在だった

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 半年前の傘騒動の時は、次の日に「ごめん、私が間違えたの」と萌ちゃんから傘を返してもらった。  そして冬休み直前に「お兄ぃが塾の特別講習が入ってアンコンに行けなくなった、ごめん。って」と伝えてもらった。  それでも先輩に良い報告が出来るようにと練習を頑張ったけど、コンテストの結果は散々だった。  萌ちゃんとは傘の事がきっかけで2年生(同じクラス)の間は時々話したけど、クラスが別れてしまえばそれまでの関係だった。 「あ、しまった。傘を干していない」  私はのっそり起き上がり、階下の玄関へフラフラしながら向かう。  見学会の行き道は小雨が降っていたので、長傘であるお気に入りの猫柄をさしていった。体育館で受付をするために、体育館入り口のそばの傘立てに立てて、そして…… 「あああああああっ!どうしよう!忘れてきた!」  体育館から校舎へ直接向かったので、見学中傘は傘立てに残していった。上履きに履き替えた後の靴は手荷物として持ち歩いていたので、校舎の昇降口から出た私は完全に傘の事を忘れていてしまったのだ。  それでもいつもなら絶対忘れなかったのに……!  お気に入りに加え、立石先輩との思い出の傘。  もうずいぶんボロボロになってしまったけど、どうしても手放せないでいた。  ……捨て時なのかもしれない。傘も、想いも。  忘れものとして残される高校には迷惑な話だけど、わざわざ電車を使って傘1本を取りに行く気力がない。  ましてや萌ちゃん経由で立石先輩にお願いするなんて……絶対無理。  私は自室へ戻り、再びベッドへダイブした。 「……辛いなぁ」  諦める、と決めたら惜しくなる。だけど気力が追い付かない。  ―――いいや、今は何も考えず眠っちゃえ。  制服がシワになるってママに怒られるだろうな、なんて考えながらウトウトし始めていたら、『ピーン…ポーン』と玄関チャイムの音がした。
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