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格好悪いところ、見せたくない
中学校から帰宅した後、僕はダラダラとやる気のない状態で塾の宿題に取り組んでいた。
そこへ玄関の呼び出し音が鳴り、モニタで確認すると春川がいた。
は?なんで春川がウチに!?
慌てて玄関へ向かったが、ドアを開ける前に深呼吸をし「あれ、春川。どうした?」と動揺など見せないように努めた。
同じ吹奏楽部で、打楽器担当の春川菜々美。
妹の萌と同じクラスだがあまり接点はないらしい。
俺のサックスのソロの後は、必ずと言っていいほど叱られていた。
話したことはほぼ無いが、ギャップ萌えというのか可愛い見た目の割にドラムを叩く姿が格好良く、気になる存在からいつしか恋心へと変わっていっていた。
その春川が、真っ赤な顔をして目の前にいる。
小雨の中、無理やりと言っても過言ではない流れで後輩の春川を、相合傘で送る。
会話を始めるタイミングが掴めずやきもきしながらしばらく歩き、やっとの思いで始めた会話が盛り上がり始め、まだ到着しないで欲しいと思った矢先だった。
「聴いてみたいなぁ……」妙に艶っぽい声で彼女が漏らした一言。
え?今、俺何の会話をしていた?
あ、部活だ。軽音楽部の話だ。
聴くって、軽音楽部の演奏?
俺が軽くテンパっていると「あ!ここです!私の家。送ってくださってありがとうございました!」と何事もなかったかのように彼女は門扉を開け、ひょいと家の敷地内へ入っていった。
「じゃあアンコン頑張って」
そう余裕ぶって帰る俺は橋を越えたあたりから傘を畳み、走り出した。
―――さっさと塾の宿題を終わらせるぞ!
春川を送る前、もう少し一緒にいたい、帰ったら真剣に取り組むから!と受験生である自分自身に懇願していた。
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