格好悪いところ、見せたくない

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 宣言通り帰宅後は宿題を塾の時間までにやり遂げ、その日から志望校に合格してやると猛勉強を始めた。  残念ながらアンコンの日は塾の特別講習と重なってしまい聴きに行けず、結果も良くは無かったので春川と繋がる話題はそれで切れてしまった。  そして春が過ぎ、6月上旬。  志望校の北山高校へ入学できた俺は、高校見学に来た中学生達を眺めながら春川の事を思い出していた。  授業についていくために予備校へ通い出したのでいわゆる『帰宅部』となり、サックスからは離れてしまっていた。  彼女が呟いた「聴きたい」は、俺のサックスの事だったのかもしれない。  だとしても今の情けない俺では、格好良くサックスを聴かせるなんて出来やしない。  家は知っているから何かきっかけでもあれば会うことだけでも……いやいや、いきなり卒業した先輩が訪ねてきたら気持ち悪いよな。  見学会の中午前の授業が終わり、部活の無い俺はさっさと帰る支度をする。  朝の雨は止み、外はムワッと湿気が立ち込めていた。 「じゃーな。部活頑張れよー」と体育館前で出会った県大会出場が近い卓球部員に声をかけ、校門へ向かう。  ……ん?今、アレが無かったか?  俺は踵を返し、体育館出入り口まで慌てて向かった。
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