遠い存在だった先輩が、すぐそばにいる

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 立石先輩は同じ吹奏楽部所属で、私にとって憧れの先輩。  派手な顔立ちでは無く物静かな方だけど、意外にも担当は華やかなサックス。その音色は甘く、他の楽器をうまく引き立ててくれる存在だ。  立石先輩のファンは多く、私もその音色に魅了された内のひとり。  皆が迷子にならないようにリードしてくれているのに、私はその音色に酔いしれて、打楽器パートをすっ飛ばしてしまうほどだ。  だけど1カ月前の文化祭を最後に、3年生である先輩方は退部。  推しのいない部活なんて、豆板醤が入っていない麻婆豆腐のようなものよ。  その反動で12月末に控えているアンサンブルコンテストの練習に身が入らず、今非常に困っている。今日も朝練でしっかりダメ出しされた。  その立石先輩の1つ下の妹、萌さん。  私と同級生(クラスメイト)だが、彼女は明るく華やかでほぼ関わりのない存在だ。  うーん、どうしよう。  萌さんの登校時には雨が上がっていたのかこの傘は濡れていないので、今朝使用した私の傘が濡れたまま保管されてしまう恐れがある。  明日から天気は良さそうだから、もし萌さんが入れ替わっていることに気が付かなかったらそのままになってサビてしまうよね。  買い替えたいとはいえ、最後まで大事に使いたいマイ傘。  よし、今から先輩の……いやいや、お家に向おう!  決して先輩にお会い出来たらラッキー、などという(よこしま)な気持ちではございません!
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