遠い存在だった先輩が、すぐそばにいる

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「ちょっと持っていて」と私に傘を持たせ、先輩はサンダルから靴へ履き替える。 「もしかして、送ってくださるつもりですか!?」  期待がこもり過ぎて、声が上ずった。 「うん、そのつもりだよ」と私から傘を取り返す先輩。 「いけませんよ!先輩は受験生ですし、雨に濡れて風邪でも引いたら大変です!」  そうだね、やめておく。なんて言われたらもの凄く残念だけど、この12月初旬。受験生にとって大事な時期だって、受験を知らない私でもわかる。 「気晴らし、気晴らし。多少は運動した方が、勉強の効率は上がるんだよ」と言って、私を傘ごと押し出し、玄関のドアを閉めた。  この時点で傘は1本。  つまり、相合傘……!?  ……断るべきだってわかっている、だけど送ってもらいたい。  傘を借りればいい、なんて考えには気がつかない振りをする。  だってわずかな時間でも先輩と一緒にいられるなんて、しかも相合傘なんて、今後またあるとは思えないもの! 「さ、行こう。完全に暗くなる前に帰らないとね」  先輩が玄関ポーチから一歩踏み出て手招きする。  私は緊張しながら、大きな傘の下の先輩の左側にすっぽり収まった。  先輩は私が濡れないよう、私の歩幅に合わせてゆっくり歩く。  どうしよう。  何か話した方が良いのだろうけど、緊張して頭の中が真っ白になっているから数歩先の地面を見ながら黙って歩くことしかできない。  さぁぁぁ…と小雨が傘の上で弾ける音だけが続いた。
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