遠い存在だった先輩が、すぐそばにいる

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 話す言葉が見つからなくて走って帰ってしまいたい一心だけど、緊張しながらもこのまま先輩の横で歩く時間も堪能していたい。  橋を渡ってウチの地区に差し掛かった頃、雨が少し和らいできた。  雨、止んで欲しくないな……。  ふっ…と視界に先輩の右手が入ってきた。  横断歩道が近いので、俯いて歩く私を静止してくれたのだ。  その瞬間、傘を持つ先輩の左腕と私の肩が触れた。 「あ、す、すみません……」  焦って先輩の顔を見上げると、優しい笑顔の先輩と目が合った。  慌てた私は思わず顔を背けてしまう。  あぁ、なんでこんな態度をとってしまうのだろう。  恥ずかしさと後悔で顔面の体温が一気に上昇する。 「……アンコン、春川は打楽器担当だから出場出来るんだろう?調子はどう?」  自己嫌悪に陥っている私に気を使ってか、唐突に先輩が話題を振ってきた。  年末に行われるサンブルテストは、毎年我が校では金管楽器、木管楽器、打楽器それぞれのパートで5~8人のチームを編成し、出場している。  先輩がいないので練習に身が入りません、なんて言えるわけもなく、 「私はマリンバ担当で……初めてなので全然思うように弾けません」と笑って誤魔化した。  サックスなどの木管楽器やトランペットなどの金管楽器担当の部員は大勢いるので、毎年オーディションが行われると聞いている。  私が所属する打楽器の部員は、1年生を含めても5人。もれなく出場出来るのだ。
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