05.〈挿話〉雪の日 2(蒼人視点)

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「……そう言えば、なんの話だったんだ?」  握られた手はそのままで、思い出したように質問してきた。  急に話題を変えられ……というより、元の話に戻ったというのが正解だけど、遅れる原因となった出来事を思い出し、思わず眉間にシワを寄せた。 「あー。別に大したことじゃない」  先程まで可愛すぎる麻琴を見てテンションが上がっていたのに、嫌なことを思い出してしまう。  もう全て記憶から消し去りたいのに、不愉快なことに、あのアルファとの出来事はいつまでも脳裏に居座り続けている。  少しイライラしながら視線をそらし、声のトーンも変わった俺の返答に、麻琴はわざとらしくため息をついた。 「……そっか。おれにも言えないことなんだ」  麻琴の寂しそうなその声に、はっと息を呑んで視線を戻すが、視線が合うことはなかった。  いたたまれない気持ちになって、俺も視線を落とす。  雪だるまのことを話していた時の麻琴の声と笑顔を思い出し、胸が痛くなる。  俺の言葉と態度のせいで、麻琴から笑顔が消えたんだ。麻琴を守るとか言っておきながら、俺が駄目にしてどうする。 「……かたがついたら、全部話すから」  それでも、今教室でのやり取りを話したところで、俺に恋心を自覚していない麻琴にとっては、寝耳に水だろう。  もう一度あのアルファと話をして、方をつけてからじゃないと駄目だ。 「ふーん、わかった。蒼人がそう言うなら、それまで待つよ」  少し寂しそうな声だけど、明らかに変わった声色に顔を上げると、仕方がないなぁ……と言いながら、繋がれた手をきゅっと握り返してきた。   「じゃあ、帰ろうぜ」  滑りやすいから気をつけなきゃな、なんて言いながら一歩を踏み出す。  いつもならはしゃぎながら先を行くだろう麻琴が、今日はゆっくりと足並みを揃えて隣に並んで歩いて行く。 「あっ! 傘さしながらだと、歩きにくいか!」  麻琴は突然思い出したように慌てて繋いだ手を解こうとしたけど、せっかく繋いだ手をそう簡単に離したくはない。  返事の代わりに、今度は自分から麻琴の手をきゅっと握り返すと、少しびっくりしたようにこっちを見た。  まだ言葉にして伝えられないけど、俺の気持ちは変わらない。この先この手を離すつもりは、ない。  そんな思いも込めて、こちらを見る視線に、無言でコクンと頷いた。 「たまには……いっか」  麻琴はほんのりと頬を染め、ぼそっとつぶやいた。  常に兄弟のように過ごして来た俺達にとっては、こんなほんのり甘さを感じる出来事なんて珍しい。  例えこれが兄弟に対する愛だとしても、今は俺にだけ向けられた愛情を、温かな気持ちで受け取ることにした。  心にぽっと灯ったこの気持ちが、いつかは本物の恋心になる日が来ると信じて。
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