08. 友達とのお出かけ

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 蒼人の匂いはこんな不快じゃないのに。蒼人が側にいれば安心するのに。蒼人に触れられたら心がホカホカするのに。蒼人と一緒にいるだけで、幸せな気持ちになれるのに……!  何度試みても、身体は自由に動かない。  抑えられた身体は緩められるどころか、ますます密着されていく。  なんで……なんで……。  どう足掻いても相手は楽しそうに笑うだけだ。  おれは抵抗を諦めて、ぎゅっと目を瞑る。今にも溢れそうになっていた涙が、一気に頬を伝った。  もう駄目だ──。  そう思った瞬間、急に拘束されていた身体が開放され、纏っていた嫌悪感もこつ然と消えた。  え……?  恐る恐る目を開けると、店員さんに羽交い締めにされているさっきの男が一人と、もう一人の男はおれと同じくらいの歳に見える爽やかイケメンに拘束されていた。 「大丈夫?」  爽やかイケメンは声までイケメンで、おれの方を見て心配そうに声をかけてきた。 「あ、ありがとうございます。大丈夫です……」  本当は、蒼人が助けに来てくれたのかと一瞬期待してしまったんだ。  だからワンテンポ遅れてしまい慌てて御礼の言葉を伝えると、男を捕まえたまま『良かった』と胸を撫で下ろしたようだった。  そちらを見ると捕まえている男が目に入ってしまって、さっきの嫌悪感を思い出しブルッと身震いをした。  しばらくして警察が来ると男たちを引き渡し、簡単な事情聴取を受けた。  少しの間身体の自由は奪われていたけど、どこかに連れ去られたりしたわけではないので、相手へ厳重注意という形になるだろうと言われた。  相手はやはりアルファだったらしく、あまり事を荒立てたくないようで、店側からもそういった対応をお願いされた。  おれだって面倒なことには関わりたくないしと、悔しいけど承諾することにした。  何が性差別のない世界だよ……。  現実はまだ根強い差別が残っているのだと、身に染みて感じる出来事となった。
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