10. 突然の出来事

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『 お れ と つ き あ っ て く れ な い か な 』  耳に入ってきた言葉を反復してみるものの、言葉として認識することが出来ない。単語の羅列として脳内に並んだそれらは、全く意味をなしているとは思えず、再び首を傾げて無言のまま考え込んだ。 「突然でびっくりしたよね。……でも、高校一年の頃からずっと気になってたんだ」 「高校一年の頃からずっと気になって……?」  佐久くんは、おれが戸惑っているのはわかっているようだったけど、そのまま言葉を続けた。  佐久くんの言っているセリフの意味は相変わらず理解出来ないままだったけど、オウム返しのように、言葉を返した。 「そう。一年の頃から良いなって思ってたんだ。でも、由比(ゆい)くんの隣にはずっと森島(もりじま)くんがいただろ? 話しかけることが出来なかったんだ。俺だけじゃない。そう言ってる奴らは多いんだよ」  正座をしたままずいっと一歩前進した佐久くんの行動に、変なアルファに絡まれた時のことを思い出してしまい、無意識に身体を硬直させた。  「ああごめん。怖がらせちゃったかな」  佐久くんはそう言いながら慌てておれとの距離を取った。  初めて会った時からそうだけど、佐久くんはとても紳士的だ。無意識に拒否反応を見せてしまったのに嫌な顔もせず、優しい言葉をかけてくれる。 「由比くんが怖がるなら、これ以上近づかないよ。でも、少しだけでも良いから考えてほしいんだ。いきなりだと不安なら、まずは友達として二人で出かけるのはどうかな?」 「友達として、二人で、出かける……?」 「ああ、そうだよ。いつもは四人で出かけるけど、二人で。──ああそうだ、君はお礼をしたいって言ってくれてたよね? じゃあ、それをお礼にしてくれないかな?」  おれは少しずつ身体の緊張を解いて、佐久くんの言葉にゆっくりと耳を傾ける。 「……お礼?」 「そう、お礼。それに友達同士二人で遊びに行くのは、不思議なことじゃないよ。……俺はもう、由比くんは大切な友達だと思ってるんだけど、君はどうなのかな?」  佐久くんはいつもの爽やかな笑顔を見せると、おれの返事を待った。急かすことなく、目の前でニコニコとした笑顔は絶やさない。  いつもと変わらない笑顔を見ていたら、ほっと身体の緊張が完全に緩んだのを感じた。
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