15. 本当の気持ち

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15. 本当の気持ち

「僕からこんな話をされてからじゃなくて、自分自身で気持ちに気付いてくれるのが一番自然なことだと思うんだけど、今回の事件があったからね。麻琴(まこと)くんを守るという意味でも、この話はしておいたほうが良いと思ったんだ」  先生はおれの手をぎゅっと握る。 「もちろん麻琴くんの気持ちと、蒼人(あおと)くんの気持ちが、一番大切なことには変わりないよ?」  握っていた手を離すと、蒼人がするみたいに、頭をぽんぽんっと撫でた。 「蒼人くんに話しても良いし、話さないままでも良いけど、どちらにしても、蒼人くんの私物をいくつか借りておくと良いよ」 「……え? 私物?」 「そう。麻琴くんは、蒼人くんの匂い、好き?」  先生の質問に、蒼人を思い出す。小さい時から、蒼人の側にいてあの匂いに安心していたんだ……。  そう思ったら、急に顔が熱くなる。  恥ずかしくなって俯くと、それが答えだねと、うんうんと嬉しそうに頷いて話を続けた。 「オメガにとって、好ましい香りは精神安定剤になるんだよ。まだ麻琴くんの状態はしばらく不安定だろうし、手元に蒼人くんの匂いのするものを置いておくのはとても意味のあることなんだ」  先生はそう言いながら立ち上がると、もう少しで30分になるかな。と時計をちらっと見た。 「まだ話はあるけど、いっぺんに言っても疲れちゃうだろうから、今日はここまでね。……数日入院してもらうことになるけど、ご家族には連絡してあるから大丈夫だよ。ゆっくり休んで」  そう言うと先生は部屋を出て行った。  おれの、本当の気持ちって……。  先生に言われたことを、頭の中で辿るように思い出しながら少しずつ整理していく。  産まれた時からずっと一緒で。幼馴染で。一番の親友で。家族みたいで。兄弟みたいで──。  休学するって聞いた時。  飯田(いいだ)くんと買い物に行って変なアルファに絡まれた時。  おれとは会えないと言ったのに、飯田くんと一緒にいるのを見た時。  喫茶店でヒートになった時。  今日、目が覚めた時に目の前にいた時。  ──どうだった? おれは、どう思った?    今まで側にいるのが当たり前過ぎて、ずっとこの関係は変わらないと思っていた。  家族……兄弟と同等の関係ならば、ずっと側にいられると思っていた。  ──なんでそう思った?  ずっと、ずっと、蒼人がおれから離れないっていう、確証が欲しかった……から?  家族ならば、絶対に離れない。例え蒼人と並んで歩くのが、他の人だとしても?  ……っ! 嫌だ。蒼人の隣は、おれじゃないと、……嫌だ!  おれは、爪が食い込むくらいに、ギューッと拳を握る。  やっと……やっと、自分の本当の気持ちに気付いた。 「おれは、……蒼人が、好きだ──」  ハッキリと口に出して言うと、色々な思いが混ざりあった感情が、ブワーッと一気に押し寄せてくる。  素直になると、今まで理由がわからず戸惑っていた感情の意味が分かった。  なんでどうしてと何度も問いかけていた、それに対する答えもあっさりと見つかった。
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