17. これからのことと見舞客

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 無自覚だったにもほどがある。  蒼人も何も言わず、物心ついた時から当たり前のようにそう接してきた。  おれの日常であり、蒼人の日常であり、『おれ達の変わることのない関係』だったはず。  それが今、変わってしまった。  『好き』と自覚したあと、今までの自分たちの行動を思い起こすと、明らかに幼馴染の域を超えていたように思う。  周りから、お前らそれで付き合ってないの? って言われても仕方がないなと思う。  でもこれからは、周りが勘違いしてしまうような態度も取れないし、婚約者のいる相手とゼロ距離でいるのは不自然だ。  せめて、幼馴染として仲良くするくらいは、大丈夫なのだろうか。自覚した本当の気持ちに蓋をして、バレないように振る舞えば、側にいられるのだろうか。  おれはこの先ずっと、蒼人への気持ちを誤魔化し続けられるのだろうか……?   「麻琴……?」  何も言葉を発さずにいるおれに、蒼人が心配そうに声をかけてきた。気付かぬうちに、どんどん頭を垂れてしまっていたらしい。おれの視線は、気付くと自分の膝へと下りていた。 「あ……ごめん。あの日のことを思い出してた……」  嘘ではない。確かに思い出していたのは、あの日のことだった。  けど多分蒼人は、外出先で初めてのヒートを迎えてしまった、怖かった経験を思い起こしていると思ってるのだろう。  半分正解で、半分は不正解。  不安しかなかった初めてのヒートの経験よりも、蒼人とのこれからの事を考えている割合のほうが、きっと多い。   「大丈夫か? まだ本調子じゃないのに、負担のかかる話をしてしまったから……」  そう言いながらベッドの上に座っていたおれの背中を支えると、ゆっくりと横たわらせた。 「疲れただろ? 夕飯が運ばれてくるまで、少し休むと良いよ」  おれの頭をゆっくりと撫でると、心配そうに、でもとても優しい笑顔で微笑んだ。  太陽がよく言っていた『慈愛に満ちた表情』というのはこのことなのかもしれない。 「相変わらず、過保護だなぁ」  おれは少し呆れたように言いながらも、心の真ん中がぽっと暖かくなるのを感じていた。
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