20. 退院と友達の存在

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 片付けている手を止めて、飯田くんの方を見る。そして手で謝る仕草を見せた。  スマートフォンを預けているのは本当だ。ただ、代替え機は渡されている。でも飯田くんはまだ最近友だちになったばかりだし、本当のことはまだ話せない。  隠し事をするのは嫌だけど、この件に関しては仕方がないことだった。  早く事件の真相が分かって犯人も捕まったら、また前みたいにみんなで遊びに行けるかな。キャンセルになっちゃった旅行にも行けるかな。  その時のおれはそんなことをのんびりと考えていた。今考えると、危機感なんてまるでなかったのかもしれない。  危険は案外身近に潜んでいるものだと知るには、そう時間はかからなかった。    蒼人は、おれの退院までを見届けて、またしばらく顔を出せなくなると思う。とだけ言って、出かけていったみたいだ。やはり学校には来ていない。  きっと、飯田くんとの結婚に向けての準備が忙しいのだと思う。いずれ、飯田くんも学校を休むか辞めてしまうのかもしれない。  蒼人への想いを自覚したおれにとっては、胸が痛む事実だけど、どうにも出来ない。せめて報告された時に、笑って祝福できるように、心の準備はしておかないといけないなって、思う。  またもんもんと考えてしまい、はぁぁぁと、大きなため息をついた。  ただ、今回は少しだけ違った。  全く連絡手段のなかった入院前と違って、今は蒼人と連絡を取れる手段がある。メッセージの送信くらいしたって良いよな。  来たるXデーまでの僅かな間。まだ神様はおれに情けをかけてくれたみたいだった。  朝飯田くんに話したことを、放課後教室に顔を出した佐久くんにも説明した。 「そうか。それは残念だな……。すぐにとは言わないけど、もう少し由比くんが落ち着いたら、リベンジでまた出かけたかったんだけどな」  心底残念そうに言ってくれる佐久くんには申し訳ないけど、蒼人や家族をこれ以上心配させたくない。  おれの経験値の少なさから、佐久くんへの気持ちが特別な感情なのかもしれないなんて勘違いしてしまったけど、今なら違うと断言できる。仲の良い友達としての、感情でしかなかったんだ。 「ちょっと先になっちゃうけど、ほら、卒業してからだって会えるだろ? ……おれ達友達なんだから」
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