20. 退院と友達の存在

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 そう。まだ付き合いはそんなに長くないけど、『友達』としては、とても良い奴らだと思うんだ。出来ることならば、長く付き合っていきたいと思う。  卒業してからだって、たくさん会ってあちこち出掛けたりしたい。  でも、おれのこの言葉はきっと実現することはない。  蒼人と飯田くんが結婚したら、おれは近くで見ている自信なんてない。  だから、両親に話をして、家を出ようかと思ってるんだ。今まで世間を知らなすぎたから、思い切って海外に出るのも良いかもしれない。海外だったら、会えない口実になるだろうし。 「卒業旅行ってことで、春休みに出かけるのも楽しいかもな。佐久くんはどこへ行きたい?」  つとめて明るく振る舞うおれに、佐久くんはそっと目を細めた。 「最近の桜の開花は早いから、春休み中に花見をするのも楽しいかもしれないね」 「ちょっと足を伸ばして、温泉も入れるところとかもいいな~」 「あとはやっぱり、美味しいものが食べたくなるかな」 「へー。佐久くん、意外に食いしん坊なんだ?」 「旅行の醍醐味と言ったら、ご当地グルメって良いじゃない?」 「うんうんそうだね。……あと、飯田くんは家が厳しくてあまり遠出とか出来なかったみたいだから、新しい体験をさせてあげたいな」 「そうだね。……ほんと、由比くんは優しいな」  佐久くんだって、優しいし、紳士だ。そんな佐久くんを好きになれたなら、どんなに良かったか。  この気持ちは本物だけど、中途半端な優しさだけで言っていい言葉じゃない。  だからおれは、その言葉を静かに飲み込み、心に蓋をした。  佐久くんと話をしていたら、先生に呼ばれていた飯田くんが戻ってきた。  それとほぼ同時に、太陽も教室へとやってきたので、さっきの旅行の話をしてみた。  もちろんふたりとも乗り気で、ワイワイと楽しく話をしていると、本当に実現できるような気がしてくるから不思議だ。  今この空間にいると、まるであの事件のことも、蒼人の婚約の噂も、初めからなかったような気さえしてきた。  ……全部夢、だったら良かったのにな……。  目の前で楽しそうに話をする三人を見ながら、本当の気持ちをすべて隠すように、再び笑顔で会話に加わった。
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