24. 社会科の先生のヒート

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24. 社会科の先生のヒート

 それからしばらくして、飯田(いいだ)くんがだんだん休みがちになっていった。  蒼人(あおと)に続いて、結婚の準備が本格的になってきたんだろう。  前ならスマホで連絡したり出来たけど、今は連絡するすべがない。それを言い訳に、飯田くんが休んだ日は、正直ちょっとだけホッとした。  仲の良い友達であることは変わらないけど、どうしても蒼人と飯田くんの事を、知りもしないくせに色々と考えてしまう。  ポツポツと休みがちだった飯田くんが、先週の水曜日から一週間まとまった休みを取っていた。  おそらくヒートだったんだと思う。休みに入る前に、少し香っていた気がするから。  友達でもデリケートな話だから、面と向かって聞けるわけでもなく、おれの憶測なんだけど。  その休み明けの飯田くんから話があるからと呼び出された。  教室では出来ない話だから、放課後、人気の少ない第二校舎の空き教室で待っていると言われた。  いよいよ、その時が来たのかな。  でも、蒼人はどうしたんだろう。てっきり、二人揃っておれに『引導を引き渡す』のかと思っていた。  いや、二人にとってはそんな事ではないのかもしれないけど、蒼人への気持ちを自覚したおれにとっては、まさにその言葉がふさわしい。  重い足を引きずるように、第二校舎の二階の一番奥まった空き教室へとたどり着いた。  その隣の教室に違和感があるなと目を向けたら、どうやら前にはなかった、オメガのセーフティールームにリフォームされていた。  セーフティールームは急なヒートになった生徒を守るために、校内に何か所か作られていて、匂いも完全にシャットアウトし、オメガ以外入れないようなシステムになっている。  ただ、こんな奥まったところに作っても、使う機会はあるのだろうか?……そう思いながら指示された教室の扉を開けると、中には誰もいなかった。  あれ? ……と、時計を確認するも、指定された時間を少し過ぎていた。ここに向かうのは気が重く、約束の時間を少し過ぎてしまったらしい。  なのに、まだ飯田くんは来ていない。何かあったのだろうかと心配になるけれど、まだ少し時間が過ぎただけなので、このまま教室内で待つことにした。
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