29. 治験について

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「あのさ。……色々とありがとな。蒼人から聞いた」 「まぁ、友達の頼みだしな?」  蒼人が休学する前に、おれに言ったのと同じく、詳しい事情は話せないけどと前置きしたうえで、太陽におれのことを頼んだと言っていた。  一つも不審がらないなんてことはなかったのだろうけど、蒼人を信頼しておれを見守っていてくれたらしい。  そのおかげで、ギリギリピンチを回避できたんだと思う。  本当に、最悪の事態にならなくてよかった……。 「色々あったけどさ、しばらくはゆっくりするといいよ」  太陽には、立て続けに色々とありすぎたから、人里離れた別荘地でゆっくり療養すると伝えてある。  すべてが終わって、話せる時が来たらちゃんと全部話す。それまでは、隠し事が続いてしまうけど、ごめんな、太陽。  事件のこととか学校でのこととか、大体は蒼人から聞いているので、おれから聞こうとしなかったし、太陽もこれ以上踏み込んだ話をしようとしなかった。  普通に友達としての雑談を少ししたあと、太陽はそろそろ帰ると言って立ち上がった。 「最後に一つだけ聞きたいんだけどさ……」  玄関に向かおうとしていた足を止め、くるりとこちらに向き直って言った。 「……で。お前ら、付き合ってんの?」  太陽に初めて会った時に言われた不躾な質問を、あのときと同じような口調で尋ねてきた。  ははっ。懐かしい。  ここ立て続けに色々あって沈みがちになっている心を、太陽なりに励まそうとしてくれたのだと分かる。  おれは笑いを抑え、平然を装う。そして、あの日と同じように答えた。 「んー? 別につきあってないし」  その答えに、「おい、まじかよ」って小さく呟く声が聞こえたから、おれはニッコリと笑う。 「おれ達、兄弟みたいなもんなんだから」  ニヤリと笑うおれに、太陽は容赦なく吹き出した。 「相変わらず、不憫なやつだな、あいつは!」  はははは! ……と大きな声で笑うと、じゃあまたな〜と手をヒラヒラさせながら帰っていった。  全てが落ち着いたら、太陽やみんなにも伝えよう。  どんな反応をするだろうか。驚くのか、やっとかーって思うのか。  でもきっと、みんな喜んでくれるはずだ。  早くその日が来るといいな……と、喜ぶみんなの笑顔を思い描いて、おれは小さく笑みをこぼした。
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