32. 両親への挨拶

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「では、ここからは俺が」  紅音さんの声を聞いて、今までほとんど声を発していなかった蒼人が口を開いた。  そして、おれを見て合図のように頷くから、おれもそれに返した。 「まずおれの休学した理由と、その後麻琴も一緒に他の場所で過ごしていた理由は、先に話したとおりです」  蒼人は、事前に電話で説明をし、治験施設からの手紙も渡してある。なので、蒼人の両親もおれの両親もそのあたりついては把握済みだ。 「今日ここに集まっていただいたのは、麻琴との今後について話し合ったので、そのご報告です」  テーブルの下で固く握り合っている手に僅かに力が加わった。そして、時折おれの様子をうかがいながら、ゆっくりと言葉をつなげた。 「卒業後の進路については、先日お話した通りです。現在お世話になっている製薬会社の企業内大学へ進み、アルファとオメガがもっと過ごしやすくなるような薬の研究をしたいと考えています」 「おれは、正直まだ分からない。……でも、オメガだからこそ役に立てることがあると思うから、勉強しながら探していきたい。だから、蒼人と同じ学校へ進むよ」  高校卒業後にアルファを支えるため、家に入るオメガも少なくない。でもおれは、自分の可能性を探してみたいんだ。蒼人が一緒なら、可能性も広がる気がする。   「そして……。まだ学生ですので、先日のヒートでは番いませんでしたが、次のヒートで番う約束をしました。人一人養うには未熟者ですので、大学を卒業し自立し安定した時には、将来の誓いをしたいと決めています」  蒼人はそこまで一気に言ってから、おれの両親に向かって姿勢をさらに正した。 「麻琴さんと、結婚を前提にお付き合いをさせていただきたいので、お許しをいただけますでしょうか?」  深く頭を下げる蒼人の隣で、おれも一緒になって頭を下げた。  心臓がバクバクして凄いのに、それ以上に嬉しさが勝る。  気を抜くと、顔がへにゃりと緩んでしまいそうだ。 「ほら、二人共顔を上げて。……許すも許さないも、もう君たちは決めたんだろう? ……それに、産まれた時からの二人を見ていたらね、正直、やっと思いを口にしてくれたかという気持ちだよ」
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