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雨の日には傘が要る。しかし、傘は無く、いつまでも降り止まない雨に僕は打たれ続けていた。
最初はただの友達だったけれど、その中でも特別な人だった。
年齢が上がるにつれそれなりに色々な経験をする。彼に彼女が出来たと聞いても僕は笑い顔の仮面をつけて、いいなぁ、羨ましいよ、とか相づちを打った。本当は僕が君の恋人になりたいのに、だ。小学校、中学、高校、大学、ずっと一緒にいて、周りから見れば僕らの関係は幼馴染み、親友に映るだろうけど、それがもどかしかった。僕が女だったら彼は僕を恋愛対象として見てくれたのだろうか、そんなこと考えたところで意味がないのに考えてしまう。
ある日、天気予報では曇りだったはずがどしゃ降りになった。かろうじて折り畳み傘を持っていて、でもこの雨で役に立つかどうか……と外に出るのを迷っていたら。
「奏太、傘入れてくれない?」
突然の申し出だけど、傘が必要な場面だと当たり前の言葉か、快諾した僕は相合い傘で帰ることになった。
「ごめんね雪弥、折り畳みだから狭いでしょ、駅までで大丈夫?」
「いや、出来れば奏太の家までお願い。今日泊まらせて」
は……? 泊めるのは別に問題ない。でも突然どうしたんだろうか、彼が何を思っているのかわからない。
僕の家に入るなり彼は抱き締めてきた。この状況、どうしていいのか……心がパニックになる。
「雪弥、どうしたの、ちょっと、苦しい」
それでもなお僕を強く抱き締める、一体何があったらこうなるのか。
「奏太、彼女出来たって聞いたんだけど、本当?俺がいるのにその女の方が好きなわけ?」
俺がいるのに……? 彼の中では僕は恋人だったのか? でも彼は普通に彼女がいたはず……。
「いや、彼女なんていないけど、雪弥は普通に彼女いたよね? 僕は……君の……何なの?」
「そんなのいない、奏太に告白するのが恐くて、拒絶されたらもう友達にも戻れないから、ただ普通の男に擬態してたんだ、だからすぐ別れてた。奏太は俺の特別な人だよ」
彼の言葉で雨が弱くなる、彼の告白が僕に傘をさしてくれた。
僕も同じ想いだと伝える。
雨は上がった。
もう雨は降らない。この先ずっと。
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