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真っ赤な夕日が沈みきった瞬間、おびただしい量の記憶が私の頭の中に流れ込んできた。
前世に、前前世に、前前前世に魔王と戦った記憶。
もっと遠い昔から私は何度も魔王と戦い、勝利し彼を封印してきた。
その回数、30以上。
あぁ、私はまた闘わねばならない。
魔王は魔物を増やし病気を蔓延させ大地を枯らし、世界を滅ぼそうとする。
今までに世界中から数多くの剣士や勇者が魔王討伐に挑んできたが、魔王を倒す事が出来たのは……私だけなのだ。
私だけが、勇者の私だけが魔王を倒すことが出来る。
「リゼ、鍋のシチューを取り分けてくれるかい」
パンの焦げを削ぎ落としながら切り分けるママ。
「ウィッチさん、たまには焦げていないパンをくれたら良いのに」と文句を言いながら、手伝うより先に食べ始めてしまった弟たち。
「パパが戦地から帰ってきたら、真っ先に窯を直してもらおうね」
裕福ではなくても幸せな時間。
私の大切な家族、大切な村。
―――この世界を、壊させはしない。
「ママ、ごめんなさい。私、今すぐに行かなきゃならないの」
「行くって…どこに。シチューが冷めてしまうよ」
私は弟たちの頭を撫で、小さく微笑んだ。
「世界を守るために、ちょっと魔王を倒してくる」
弟たちはまさか姉がそんな冗談を言うとは思わず、揃って呆けた顔をした。
本気なんだけど、ね。
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