夜中の祝言

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夜中の祝言

祝言‥‥祝いの言葉、、、婚礼。 神様に、結婚の誓いを立てるのではなく、新郎新婦を、今まで見守ってきた家族や、 ゲストの方々に、結婚を誓う、人前結婚式。 古来から続く、日本の1番古いスタイルの結婚式‥‥ ‥‥家と家を結び、人と人を結び、結婚の証としていた‥‥ 暗闇から、提灯の灯りがゆらゆらと見えて来た、、、 『お祝いと言われたが、見届ける祝言が、私には、少し、荷が重い‥‥ ‥‥何処の、どなた様の祝言なのか、、、』 そんな事が、頭をよぎって‥‥‥ ‥‥何故、私は、ここに参加しているのか、、、何故、参加できたのか‥‥ テレビの画面の向こうから、こちらへ、ものすごい列をなして、近寄ってくるように見えてきた、、、 なんとも、幻想的ではあったが、こんな時間に、この暗闇の中を、まるで、時代劇を見ているような、、、 参勤交代?、、、そんな行列のようだった。 明かりは、提灯の光のみで、行列の人の顔は、全くと言っていいほど、見えない、、、 小雨の中を、人が歩いている、、、厳かな空気が漂っている、、、 じっと、テレビの画面を見入っていた。 行列が近づくと、ようやく、花嫁を乗せた籠のような、人力車のようにも見えた、、、 花嫁は、白無垢姿に、綿帽子、、、うつむき加減で、表情を伺うことはできない、、、 雨のためか、それとも、花嫁の姿を、周りから隠すように、側近が、大きな和傘で守っているように見える。 周りの、お付きの方々も、何やらお面のようなものを頭から下げていて、顔は見えない上に、 なんとも、不思議な気配を感じながら、見ている自分が、戸惑っていた。 あれは、本当に、人なのか、、、? どなたの祝言なんだろう、、、と思ったときだった、、、 黑五つ紋付き羽織袴を着た、大柄な男性が、テレビカメラの方を、チラッと見たのだ、、、 行列の人が、初めて、カメラを気にしたような、、、 それとも、私の心の声が聞こえたのか、、、 チラッと、、、2度目にカメラ目線になったときだった、、、 『狐の嫁入りでございます』 そんな声が聞こえ‥‥ ‥‥‥その声に、体が、ビクリと、数ミリ動いた、、、 ‥‥‥私が思っていた、〝狐の嫁入り”は、晴天の中での急な雨のことを云うんだと思っていて、 見えない世界の話であって、正直、何故、〝狐の嫁入り“と言うのかも知らなかった‥‥‥ お天気雨が降ってきた時は、縁起が良い、、、 遭遇した際は、狐の嫁入りを祝って差し上げると、狐のお父さんから、有難うございますと、お礼に、 幸せのお裾分けを頂ける、、、そんな、おとぎ話に近い話を聞いた事があった、、、 誰に迷惑が、かかる訳でもないのだから、、、と、私は、お天気雨に遭遇すると、嬉しくなって、よく祝っていた事を、 思い出していた。 狐には、嫁入りを、人に見られてはいけない掟があり、偽りの雨を突然降らせて、 慌てた人間達が、家の中へ入って行った隙に、嫁入りを終わらせるというものだと云う‥‥ テレビカメラに向かって、視線を向けた大柄な男性こそが、花嫁の父だったのではないかと思った。 しかし、何故、こんな夜中に、祝言なのか、、、 昼間、お天気雨を降らせて、嫁入りすることを選ばなかったのか、、、 こんな、暗闇の中で、、、厳かではあるが、夜中の祝言には、訳がありそうだ、、、。
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