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「尾崎一雄という小説家の、『虫のいろいろ』です。中学二年の時、図書委員をやっていたんですが、傷んだ本を処分するから、欲しいものがあったら持って行っていいと言われて、昆虫記だと思ってこの本を選んだんです。で、家に帰って早速読んでみたら、昆虫記ではなくて短編小説集だったんですよ。理系の本ばかり読んでいた当時の僕にとっては、こんな文章表現の世界があるのかと、とにかく衝撃的でした」
「どんな話なんですか?」
「病身で床についていることの多い作者が、身のまわりで目にする虫を題材に心境を綴っているんですが、そのユーモラスで軽やかな筆致がただ事ではないんです。蜘蛛についての章では、男性用のトイレで、蜘蛛が二枚の窓ガラスの間に閉じ込められる格好になっているところを見つけて、根くらべをしてやろうと考える……」
「ずいぶん変わった人物ですね」
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