蜘蛛の糸

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「ええ、確かに。そして、家人(かじん)にガラス戸を動かさないように命じておいて、トイレで用を足すたびに蜘蛛と、その向こうにそびえる富士山を眺める。富士山は天候と時刻によって様々な(たたず)まいを見せ、蜘蛛はじっと動かないまま、徐々にやせてゆく……」 「最後はどうなるんですか?」 「あと少しで二カ月になるというところで、トイレ掃除をしていた奥さんが逃がしてしまうんです。いつもはガラス戸を重ねたまま動かすのに、うっかり一枚だけ動かすと、隙間(すきま)からものすごい速さで逃げ出してゆく」 「ほう、大した生命力だ」 「ええ。それに、無駄にあがいたりせずに体力を温存して、ただひたすら一瞬のチャンスを待つ……。実に見事な生存戦略です。他にも、精巧な幾何学(きかがく)模様の網を作ったり、糸を伸ばして風に乗って空を飛んだり、実に巧みな糸(づか)いを見せる。蜘蛛は調べれば調べるほど興味深い発見があります」 「それでしたら、霧島氏ともきっと話が合いますね。同行をお願いしたのは、やはり正解だったようだ」
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