蜘蛛の糸

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 霧島豊が住んでいるのは、駅から十分(ほど)のところにある3LDKのマンションだった。 「電話でもお話ししましたが、こちらが昆虫学者の柏木准教授です」 「初めまして、柏木です。蜘蛛の糸の人工合成に成功されたというニュースを、新聞で拝見しました。実に興味深い技術ですね」 「霧島です。お目にかかれて光栄です。とにかく、こちらにおかけください」  霧島はそう言って、リビングのソファーを二人に示した。身長一六〇センチ程とやや小柄で痩身(そうしん)、黒縁の眼鏡をかけている。 「まず、先日お預かりしたコーヒーカップをお返しします」  堂島はそう言って緩衝材(かんしょうざい)の包みをテーブルに置いた。 「何か見つかりましたか?」 「いえ、特に何も。奥様の指紋が確認されただけです。だからこそ早めにお返ししようとこうしてお邪魔しました。このカップ、確かマイセンですね。壊しでもしたら(こと)だ」 「そうなんですか? 食器のブランドとか、私は何も知らないんです。全部妻の趣味なもので」
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