蜘蛛の糸

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「出張に出かける前に、あなたはコーヒーを飲んでいた恵子さんを吸入麻酔薬で昏睡(こんすい)させ、首に人工の蜘蛛の糸で作った(ひも)を巻きつけておいた。蜘蛛の糸の欠点は水に濡れると縮んでしまうことだから、実用化に向けて、水に対する収縮特性(しゅうしゅくとくせい)の異なる糸を何種類も合成したはずだ。収縮性の低い糸が見つかる一方で、強靭(きょうじん)で収縮性の高い糸も見つかったことでしょう。そんな実用には不向(ふむ)きな糸が、今回の犯罪では絶好の凶器となったわけですね。それからあなたは恵子さんの衣服にコーヒーをこぼしておいた。昏睡から覚めた彼女は、居眠りをしてコーヒーをこぼしたのだと考えたことでしょう。あなたが出張すると知って、彼女は大和俊二と会う約束をしていた。彼女が急いで身支度(みじたく)を整えようとシャワーを浴びると、首に巻いてあった紐が収縮し、彼女は窒息した。―ベテランの堂島警部補が感じた違和感の原因はここにありました。つまり、通常は紐を左右に引いて首を絞めるのに、今回は紐そのものが縮んで首に食い込んだ」
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