蜘蛛の糸

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「一週間前、妻が僕の会社に貸しつけている七千万を引き揚げると言い出しましてね。紡糸(ぼうし)押出機(おしだしき)を二台、新たに買い入れたばかりのところだったんです。資金(しきん)()りが苦しくなるから、せめて一月(ひとつき)待って欲しいと頼んでも、一向に耳を貸そうとしなかった。大和俊二が立ち上げるAI関連のベンチャー企業に出資するつもりだったようです。こちらは資金繰りが行き詰まったら、業務提携がお流れになるどころじゃない、会社そのものがお(しま)いだった」 「恵子さんを思いとどまらせるのは不可能だと考えて、今回の犯行を思い立ったんですね?」 「ええ。実はこのところ、悪夢にうなされるようになっていましてね。蜘蛛になった自分が、妻の首を絞めているんです。彼女を殺したところで、別にどうということもないと思っていたんですが、心というのは、想像していたよりもはるかに(もろ)いものですね。とはいえ、進んで自首する勇気は、私にはありませんでした……。柏木さん、お会いできて本当によかった」
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