蜘蛛の糸

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「僕にとってはそうだったのかもしれません。残念なのは、小さすぎるせいで、その形態の珍しさや美しさに気づく人がほとんどいないことですね。僕が研究しているゾウムシコガネコバチは、成虫でも体長三ミリ以下ですが、金属光沢のある、実に美しい緑色をしているんです」 「寄生バチのガチャガチャが登場したら人気が出そうですね」 「ええ、ダンゴムシやスズメバチまで商品化されたから、密かに期待しているんです。監修させてくれるなら、ギャランティがなくても喜んで引き受けるんですが……」  閑静(かんせい)な住宅街をさらに五分程歩いた時、柏木は実が赤く色づき始めた柿の木の枝に、ジョロウグモが直径一メートルはあろうかという網を張っていることに気づいて言った。 「こうして成熟した雌が堂々とした網を張っているのを見ると、いよいよ秋も本番だという実感が()いてくるんです」  黄地(きじ)緑青色(ろくしょういろ)横帯(よこおび)のある蜘蛛の腹背(ふくはい)と、黄色味を帯びた横糸を夕陽が照らしていて、全体が金色に輝いて見えた。
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