黒く、塗りつぶせ。

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 私のようなものは、このまま朽ち果ててしまえばいいんだ。それが私にはお似合いの最期なんだ……。私はそんなことを思いながら、チラリと家の庭先の方を見た。  この家も妻の両親が亡くなった後にそのまま譲り受けたもので、それを考えると私が住み続けていいのか迷うところだが、迷ったところでどうにかなるものでもない。そして私は、妻が面倒を見ていた庭の草木が、すっかり枯れ果てているのに気付いた。  そりゃあ、そうだよな。面倒を見てくれる人がいなくなったら、枯れていくだけだよな……。妻がいた頃は、それぞれの季節に合わせた花で庭いっぱいが埋まっていたものだが、今は見る影もない。俺もきっと、あの花のように……。  そう思いながらも私は、妻が大切にしていたものが「失われていく」ことに、今更ながらに胸を痛めていた。かといって、「何もやる気が起きない」状態の私に何が出来るわけでもなく、元々庭の世話は妻に任せっきりだったので、何をどうすればいいのかもわからなかった。そうさ、私なんかに出来ることは、何もありゃしない……。  そこまで考えたところで、私は久しぶりに「がばっ」と半身を起した。  ……そうだ。こんな私に「出来ること」といったら。「それ」しかないじゃないか……?!!  私は部屋の隅に積み重ねたまま放置していた、絵画の道具の前に歩み寄った。絵筆も絵の具も、絵の具を溶かすパレットも、薄く埃が積もっている。結婚する前も、妻と一緒になってからも、こんなことは一度もなかった。妻は生活の糧になるとは思えない私の絵画を、ずっと応援してくれていたのだから。だから私は例え売れなくとも、絵を描き続けていたのだから。
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