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それからまた、数時間が経過し。私はキャンバスの前で、「ふう……」とため息をつき、たった今書き終えたばかりの絵を、じっくりと眺めた。
……完璧だ。その前にも書いたばかりだから、庭の中の草木も花も、しっかりと「再現」できている。そしてそこで、草木に水をやっている「妻の姿」も……!!
絵の中では、中央からやや左寄りの位置で、鉢に水をやる如雨露を右手に持った妻が、少し腰をかがめている姿が描かれている。その顔には、自分にとってこれ以上なく、いとおしいものを見つめるが如き笑顔が浮かんでいる。そう、私は妻のこんな笑顔を見るのがたまらなく好きだった。だから、妻の想いを受けて咲き誇った、庭の花々も大好きだったんだ……。
そして描かれた絵には、そんな私の想いも反映されていたのだろう。私は自分自身が描いた妻の絵を見て、その笑顔を見つめて、はらはらと涙をこぼし。そこでまた、力尽きたように眠りに落ちた。
がばっ……!
次に目覚めた時、私はある種の期待と不安を胸に、顔を上げた。いつの間にか再び外から、明るい日差しが差し込んで来ている。そう、一枚目の絵を描き終えて眠りに落ち、目覚めた時と同じく。
私はドキドキと胸を高鳴らせながら、いったん目を瞑って庭先に顔を向け。それからゆっくりと、少しずつ少しずつ、両目を開けた。……すると。
庭先にはもう一度、私の描いた絵のままの光景が再現されており。昨日私が指先で触れ、塵と化してしまった花や葉っぱも、描き直したまま「元通り」になっていた。そして。
その、小さな花が幾つも咲いている、庭の中央のやや左よりに。私の妻が、「あの頃」の姿のままで。病に倒れる前、毎日草木に水をやっていた姿そのままで、如雨露を持って腰をかがめていた。
「ああああ……!!」
これが例え、夢だろうと私の妄想だろうと、なんでもいい。そんなことはどうだっていい。目の前に、妻がいる。あの頃のままの、妻がいる……!
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