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何もする気が起きない。どこかへ出かけたり、食事をしたりすることはおろか、立ち上がるのさえ億劫だ。全ての気力が失われてしまった。そう、妻が病気で他界した、あの日から。
私は妻と暮していたこの家で、あの日以来何をするわけでもなく、ただ「ぼおっ」と家の中に寝転んでいる。無精髭が鼻の下と顎を覆い、たまにボリボリと無意識に掻いたりするが、そういえばここ数日顔も洗った覚えがない。何をするのも面倒で、何をするのも億劫だ。極端に言えば、生きていることすらも。
私がこうして「ぼおっ」と過ごしていられるのは、私が会社勤めではなく、売れない画家というしょうもない「職業」をしているからでもあった。CGだけでなく誰でも簡単にAI画像を作成できるようになった昨今、画家という職業にいったい何の意味があるのか。しかもそれが「売れない」ときたら、もともと生きている価値などなかったのかもしれない。
しかし妻はそんな私をなぜか、好いていてくれた。ただ好きというだけでなく、私を伴侶にまで選んでくれたのだ。自分でも「なぜなのか」という疑問が湧いて来る。将来性のカケラもない私に、妻は屈託なく「私がいなくなったら、どうするのよあなた」と笑っていた。私がいなけりゃ、生きていけないでしょと。そして今、妻の言った通りの状態になっているということだ。
我ながら情けないとは思う。本来なら妻の思いに応えるよう、歯を食いしばってでも、なんとか生き延びようとか考えるものだろう。情けないとは思いつつ、それでも私の体は部屋の床から動こうとはしなかった。
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