第一話 コンビニ・昼

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とにかくいなり寿司を買って御供えしろ。 ジャーキーとちゅっちゅくちゅーるの在庫の減りが激しいそうだ。問い詰めろ。 ネズミやゴキブリの類いの気配がない。衛生面に配慮し腹が膨れた店員が棚の下で昼寝しているぞ。 棚の上まで美しく陳列されている。だが届くのは一部の店員だけにゃ。 おいおい、ふざけすぎだろ。そういう店でいいんだよ、昼間は。 そうでもしなきゃ人手が回らない。コンビニの労働って結構キツいんだってさ。だからこれはちゃんとしたアイデアなんだ。 人間は一人いれば対応できる。肉体労働は獣たちで補うことができた。だからオーナーがこの作戦に出たわけさ。 訊いたらさ、オーナーの親が獣医なんだって。だからワクチンも打ってあって、健康診断も優良。洗濯、じゃなくて風呂もちゃんと入れてある。それに増えすぎないように手術もしてある。 夜は人間が店に入るんで、出勤は昼間だけ。出勤してない間は店長の知り合いが大家をやってる、これはグルだな、アパートだか借家だかに籠ってる。 全部の獣ができることじゃない。一番重要なのが「化ける」ことができる獣であること。 化けキツネ、化けタヌキ、化けネコ、大蛇、などなどついでに行き場のないアライグマとか。特殊なやつらなんだ、そのコンビニで働いてる獣たちっていうのは。 全部を救うことなんてできない。わかってるよ。ならせめて一部くらいは。 なあ、それくらい、許してくれよ。 そう考えたのかな。 昼にそのコンビニへ行けば会えるぜ。訊いてみなよ。コンビニに雇われた動機。 そうそう。夕方よりちょっと前、つまり交代の時間な。その時にコンビニの裏にある物置き、そこの更に裏。 いるぜ。コンビニ店員たちの疲れきって伸びた姿が。 何か差し入れでもしてやれば、話してくれるかもな。 俺が昼にだけ行く、森と山の麓にあるコンビニの話だ。 まだ太陽が上っていない。暗い。暗い。 きっとあのコンビニは人間で溢れているんだろう。だから、俺は、コンビニには寄らずに帰ってきたばかりの町の中を歩く。 時刻は未明、朝一時。 夜と見るか、朝と見るか。
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