婚約者に真実の愛で結ばれた恋人がいたので、わたくしは身を引いて二人の門出を祝うパーティーを開きました。

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「ルナ。俺が本当に愛しているのは君だ。でも、親が決めた婚約から逃れられない。俺はどうしたらいいんだ」 「ジョーイ様。そのお気持ちだけで、ルナは幸せでございます」 「真に愛する君のためなら、俺はどんな苦行でも乗り越えてみせるさ」  しかと抱擁して熱い口づけを交わす二人。  えー、ごきげんよう、シンシアと申します。  わたくし、とんでもな現場に遭遇してしまいましたわ。  わたくしの婚約者ジョーイと、うちのメイドて、ルナが恋仲だった模様です。  うちの庭が広いからバレないと思っているのでしょうか。  ここ、わたくしのお昼寝スポットなんですけどね。  でもまあよくある親が決めた婚約ですし、これで婚約なくなるかもしれないですわねー。くらいにしか思っていません。  そんなことより、他人の密会って、ロマンス小説を目の当たりにしているみたいで面白いですわね!  様々な小説を読みあさってきましたが、事実は小説より奇なりとはよく言ったものですわ。  ここは一つ、二人の幸せのためにわたくしが人肌脱ぎましょう。  伯爵子息とメイドでは、本来どうあがいても結ばれませんからオテツいたしましょう。  翌月。  わたくしはドレスに身を包み、邸宅の大広間を見渡していました。  今日は特別な日です。  ジョーイと婚約破棄して、ジョーイとルナの門出を祝って差し上げるのです。  よく読むロマンス小説にならって、パーティーには親族やお友だち、お客様をたくさん招待しました。 「皆さん、今日はお集まりいただきありがとうございます。本日は特別な日ですので、ぜひ楽しんでいってください」  ジョーイは困惑した表情でわたくしを見ています。 「特別? 今日はとくに誰の誕生日でもないだろう」 「いいえ特別ですわ。だってこのパーティーは、ジョーイとルナの門出を祝う会ですもの」  わたくしは中央のステージに立つ。 「皆さん。今日はわたくしの婚約者ジョーイと彼の新しいパートナー、ルナを祝うために、このパーティーを開きました! つまり、わたくしとジョは婚約解消することになりますわ」  会場は一瞬、静まり返った後、親戚たちのざわめきが広がっていく。  ジョーイは驚いた表情、給仕をしていたルナは硬直しています。 「ジョーイ、ルナ、おめでとう! わたくしあなた達の恋路を応援しましてよ!」 「し、シンシア、一体何をしているんだ?これはどういう意味だ? 俺とルナが恋仲?」 「ジョーイ、ルナ。あなた達は先日この屋敷の東屋で抱き合い口づけを交わしていたではありませんか。愛し合う二人を引き裂くなんてわたくしにはできません。潔く身を引きますわ!」    お客様は驚きの声を上げ、ジョーイとルナは嬉しすぎて言葉もないのでしょうか。立ち尽くしています。 「だから、皆さん、二人にお祝いの拍手をお願いします!」  お客様は困惑しながらも拍手を送ります。  ジョーイは頭を抱え、ルナは涙を浮かべていた。 シンシアは満足そうに微笑みながら、二人に近づいた。 「ジョーイ、ルナ、幸せを祈っているわ」 ジョーイは戸惑いながらも 「ありがとう、これで俺は本当に愛する人と結ばれるんだな!」 「ありがとうございます、シンシア様。この御恩忘れません」  ルナも涙ながらにうなずきました。  これでみんな幸せですわね。愛し合う二人が結ばれてハッピーエンド!  わたくしは新しい婚約者を探さなければなりませんが、それもまた人生ですわね。  その後……  ルナはジョーイと結婚するため、わたくしの屋敷を去りました。  ジョーイと新しい生活を始めるのです。  ジョーイは「婚約者がいるのに、他家の使用人に手を出したクズ男」として貴族社会から非難され、  なぜかルナは「主の婚約者を寝取ったあばずれ」と呼ばれるようになっていました。  ラブラブだったはずの二人の関係は悪化し、結局、一ヶ月後には破局しました。  おかしいですわ。  二人は真実の愛で結ばれているから、幸せになると思いましたのに。  事実は小説のようにうまくはいきませんのね。勉強になりましたわ。 End
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