黒羽織

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 宵闇(よいやみ)に混じり合う二人の吐息。  徐々(じょじょ)に冷めてゆく熱を惜しむように、梅之丞(うめのじょう)虚空(こくう)へ向かい白い指先をそっと伸ばした。  麹町平河町(こうじまちひらかわちょう)の夜を冷たい雨音が濡らしている。  二人が枕を並べる陰間茶屋(かげまぢゃや)の隣り合う部屋々々(へやべや)からは、陰間(かげま)たちのくぐもった嬌声(きょうせい)が漏れ聞こえていた。  まだ熱の残る身体(からだ)を離し、つと身を起こす雪政(ゆきまさ)。若く張り詰めた肌は行灯(あんどん)の淡い光に照らされている。  見慣れた雪政の広い背中。その背中が何かを探して揺れるのを、梅之丞はぼんやりと目で追った。  肩の(あた)りに薄赤く走る梅之丞の爪跡は、雪政が遠い地で新妻(にいづま)(いだ)く頃にはきっと――きっと跡形(あとかた)もなく消えてしまうのだろう。  汗ばんだ柔肌(やわはだ)に冷えた空気を感じつつ、梅之丞は静かに(ささや)いた。 「……煙草盆(たばこぼん)でしたら、その衝立(ついたて)(わき)に」 「……」 「私が、お取りしましょうか」 「……いや、いい。お前は……休んでいろ」
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