黒羽織

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御出立(ごしゅったつ)は、明朝(みょうちょう)ですものね。ふふ、若君のお帰りはまだかと……きっと皆様、()れておられるはず。会津(あいづ)は江戸から遠い場所。ずっとずっと、遠い場所……」 「……」 「御目出(おめで)とうございます、雪政様。御婿(おむこ)入りが首尾(しゅび)良く御整(おととの)いになり……改めて、御祝い申し上げます」  雪政は一瞬(きょ)を突かれたように黙り込み――すぐに平静な表情(かお)を取り戻す。 「……ああ」 「どうかあちらでも……お元気で」 「お前も……達者(たっしゃ)で暮らせ、梅之丞」  雪政の言葉を受け取り、(あで)やかに微笑む梅之丞。 「……ええ。いつか私が名女形(めいおやま)となった(あかつき)には絵姿(えすがた)でも御覧(ごらん)になって……この江戸を、昔のことを……思い出してくださいませ」
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