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黒羽織を羽織った雪政の胸元には、上り藤の家紋が白く染め抜かれている。
向き合う梅之丞は真っ直ぐ背を伸ばし、精一杯胸を張った。
「御見送りは致しません。ここで、お別れです」
「……分かった」
頷いた雪政は背を向けて、襖の引手に手を掛ける。
「梅之丞――」
背中越しに発せられた雪政の声がかすれていた。
黒羽織の肩は、小さく震えている。
「……さらばだ」
見送る梅之丞の肩もまた震えていた。
けれども梅之丞は最後の台詞に、あらん限りの微笑みを込める。
「……さようなら、雪政様……」
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