1人が本棚に入れています
本棚に追加
「すみません、誰かいらっしゃるやろか」
館の古びた木の扉を青年は叩く。
けれども分厚い扉にはノックの音は通じない。
(仕方ない。返事はないが勝手に入るとするか)
青年がその扉を開こうとしたその時、おもむろに扉が開いた。
そして、そこから顔を覗かせたのは真っ黒な目をして真っ黒なローブを纏った誰か。
驚きと焦りと、青年はとっさに押し黙る。
青年はこの今にふさわしい言葉がわからなかった。
(なんて、おそろしい人)
目の前の真っ黒な瞳は絶えず青年を観察し、全身を覆う魔女のローブはその人物が持つ威圧を確かに強めている。
「……入りなさい」
真っ黒なその人は、囁くような小さな声で青年を館に招き入れた。
招かれるがまま青年は館へ入り、扉は再び閉ざされる。
(なんや……すごい不気味な館や……)
廊下を歩く二人。
初めてやってきた場所。青年は不安そうに辺りを見回す。
暗い木の床、薄曇りの窓ガラス。
天井には弱い光のランタンが吊るされ、続く廊下をどこまでも薄暗く照らしている。
少し見ただけでも相当昔の建造物であることが推察される。
それでも天井には蜘蛛の巣やら、すすほこりは見当たらない。
誰かが手入れをしているのだろうか。
考え事をしながら青年が歩いていると、前にいた真っ黒のローブがふと足を止める。
「わわっ、すみません」
真っ黒の目が怪訝そうな表情でこちらを見た。
青年はばつがわるそうに謝罪をする。
「今度からは気をつけることだな」
黒いローブの人物は、青年よりを見上げて諭すように声をかける。
青年は黒いローブの人物の顔をじっと見た。
「なんだ、お前」
「……気になってしまって、すみません」
よく見ると、その黒いローブの人物は幼い顔立ちをしている。
もしかしたら、子供なのかもしれない。
そうやってまだ見ていると黒いローブの人物はさらに機嫌を損ねて、さらにむっとした表情を見せた。
「もういい、それよりも部屋だ。部屋に入れ」
指された先の扉は豪華な、しかも厚い二枚の扉がある。
おそらく広い部屋の入口なのだろう。
「はやくしろ、みんな待ってる」
黒いローブのその人物は、急かすようにその扉のドアハンドルに手をかける。
最初のコメントを投稿しよう!