schwarzwälder kirsch torte

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「すみません、誰かいらっしゃるやろか」 館の古びた木の扉を青年は叩く。 けれども分厚い扉にはノックの音は通じない。 (仕方ない。返事はないが勝手に入るとするか) 青年がその扉を開こうとしたその時、おもむろに扉が開いた。 そして、そこから顔を覗かせたのは真っ黒な目をして真っ黒なローブを纏った誰か。 驚きと焦りと、青年はとっさに押し黙る。 青年はこの今にふさわしい言葉がわからなかった。 (なんて、おそろしい人) 目の前の真っ黒な瞳は絶えず青年を観察し、全身を覆う魔女のローブはその人物が持つ威圧を確かに強めている。 「……入りなさい」 真っ黒なその人は、囁くような小さな声で青年を館に招き入れた。 招かれるがまま青年は館へ入り、扉は再び閉ざされる。 (なんや……すごい不気味な館や……) 廊下を歩く二人。 初めてやってきた場所。青年は不安そうに辺りを見回す。 暗い木の床、薄曇りの窓ガラス。 天井には弱い光のランタンが吊るされ、続く廊下をどこまでも薄暗く照らしている。 少し見ただけでも相当昔の建造物であることが推察される。 それでも天井には蜘蛛の巣やら、すすほこりは見当たらない。 誰かが手入れをしているのだろうか。 考え事をしながら青年が歩いていると、前にいた真っ黒のローブがふと足を止める。 「わわっ、すみません」 真っ黒の目が怪訝そうな表情でこちらを見た。 青年はばつがわるそうに謝罪をする。 「今度からは気をつけることだな」 黒いローブの人物は、青年よりを見上げて諭すように声をかける。 青年は黒いローブの人物の顔をじっと見た。 「なんだ、お前」 「……気になってしまって、すみません」 よく見ると、その黒いローブの人物は幼い顔立ちをしている。 もしかしたら、子供なのかもしれない。 そうやってまだ見ていると黒いローブの人物はさらに機嫌を損ねて、さらにむっとした表情を見せた。 「もういい、それよりも部屋だ。部屋に入れ」 指された先の扉は豪華な、しかも厚い二枚の扉がある。 おそらく広い部屋の入口なのだろう。 「はやくしろ、みんな待ってる」 黒いローブのその人物は、急かすようにその扉のドアハンドルに手をかける。
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