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モミの木の茂る森の奥深く。
施された呪いのために、ほとんど人目に触れることのない館が静かに佇んでいる。
昼も日が差さぬ真っ黒な地面。
堅牢にそびえ立つその館は、恐ろしい魔女が住むと伝わる。
背の高いその屋根を超えるさらに背の高いモミに囲まれ、獣道すらそこには続かない。
館の周りの地面は殆どがツタに覆われ、近づく全てを拒絶する。
そんな館への道なき道を今、一人の青年が歩いてゆくようだ。
細い月明かりが天の彼方から青年を照らす。
(なんやこれ、ツタっ!!)
地面に生い茂る棘の生えた植物は退けても、退けてもきりがない。
それらを手持ちの杖で強引に押しのけて進む青年は、青い光の灯るランタンをかざす。
少し遠くに館の壁が照らし出されている。
(ようやくか……!?)
確実に一歩ずつ歩を進めるその青年は、やがて館の入口のドアにたどり着くだろう。
息は切れ切れ。
足には棘のせいだろうか、少し怪我をしているように見える。
それでもなお歩みを止めない。
青年にはその館へと向かわねばならぬ確かな理由があった。
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