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「誰にも渡してない」
「……?え?あたしが先輩に会った時にはもうネクタイついてなかったですよね?」
あの日の姿を思い出すだけで勝手にちくんと胸が痛くなる。
ネクタイどころかブレザーのボタンまですべてむしり取られたあとだったんだから。
「好きな人のネクタイをもらうとずっと2人で幸せにいられる」そんなジンクスがあって、ネクタイが欲しいと言ったら告白をしているようなもんだった。だから、ネクタイがない姿をみてもう人のものになってしまったんだって思ってあたしは逃げたんだから。
「ネクタイ下さいって言われるの面倒でポケットに入れてた」
「……は?」
「そしたら誰もネクタイくださいって言わねぇだろ」
「そりゃそうですけど……なんのためにそんなことを……」
目の前にあるエンジ色のネクタイにそっと触れる。
数年前のものなに草臥れることも無く、大切に仕舞われていたような気がする。
「お前がネクタイくれって言ってくると思って」
「……は?」
さっきから先輩の口から出てくる言葉の意味がわからなくて、ずっと「は?」って返してる気がする。
「お前からネクタイくれって言われたら、告白するつもりだった」
「は?」
「お前それしか言えなくなったんか?」
あたしをみて可笑しそうに笑う。
「いや、理解が追いつかないというか……」
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