現実主義の幸福な王子と、胡散臭いツバメ

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「え、いや、俺はツバメ……人間じゃ」 「はは、何を言う。ツバメが喋るわけないじゃないか。ファンタジーじゃないんだぞ」  王子が高笑いしてみせた。 「確かに、僕は政治家の父から溺愛されて皆から『王子様』と揶揄されているガキだが。それでもツバメが喋る事を信じるようなファンタジーな頭はしていないぞ」 「ああ、そう」  ツバメ、もといツバメを自称していた男が脱力したようにため息をついた。  そして、窓辺に顔をだして、金色の王子像の近くに座っている少年を睨みつけた。 少年は本当に目が見えないらしく、男が睨んでいるのに気づいていない様子で偉そうにふんぞり返っていた。 「それで?やってくれるのか?ツバメさん?」 「はぁ」  男は少し困惑しながら言った。 「あのな、王子様、その書類偽造はお前も犯罪の片棒担ぐ事になるんだぞ」 「なんだ?弱気だな。天国に行きたくないのか」  少年は男を嘲笑う。  さすがの男も少しイラついたように言った。 「つーか、俺が王子様の言う通りにやるって信用できるのか?勝手に判子使って好き勝手するかもしれねえぞ。王子様自分でさっき言ったじゃねえか。見ず知らずのやつに宝石を渡すなんてバカバカしいって」 「信用できるさ」  少年は自信たっぷりに言った。 「ツバメが悪い奴だったら、僕が目が見えないって分かったらすぐに、その金の王子像を盗んで逃げているはずじゃないか?こんなにゆっくりとおしゃべりしたりしてないだろ?」  少年の言葉に、男は真っ赤になった。 「孤児院の件、本当にどうにかしたかったんだろ。でも手持ちは無い。じゃああの金の王子像でも盗もう、いやでも盗む勇気はない。せめてあのガキの了承でも得られたら……そんなところじゃないのか?」 「う、うるせぇ」 「ほら、早く。父がもうすぐ帰ってくる」  少年は、たどたどしく歩いて、自分の部屋を出ていくと、すぐに豪華な判子を持ってきた。  そして、窓から顔をだして、男の声の方へ顔を向けた。 「頼んだよ」 「いや、でも」 「目の見えない僕にだって見えていたさ。この街の貧富がね。父みたいな政治家ばかり肥えて、街の人達は明日食べるパンも無いってこと。僕は目が見えないから何も出来ない。僕だって自分の持っているものを何でも困ってる人に届けてやりたいのに。でも、ツバメが代わりに色々してくれたら何かができる。そう、それこそ、オスカーワイルドの幸福な王子みたいに」  少年は嬉しそうに男に判子を握らせた。 「……参ったな。王子様の方が一枚上手か」  男は笑って判子を受け取った。 「よし、俺に任せろ。一緒に天国にいこうぜ」 「楽しみだな」 ※※※※  約一年後、とある政治家の大量の寄付金により、その街はほんの少しだけ豊かになった。  一方ではその政治家は、市民からの好感度は上がったものの相当な貧乏になった。  政治家には、目の見えない息子がいた。お金があれば角膜移植もできたのに、と言われたがそんなお金は無くなっていた。 「後悔してっか?王子様」 「今その名で呼ぶのはツバメだけだ」  少年は、声の方をむいた。それは、少年にとってのツバメになってくれた男の声だ。 「後悔してないよ。俺は父の稼いだ金を変な正義感で街中にばら撒いたクソガキだし、これくらいは覚悟してた。 ……街が明るくなった。父が市民から好かれるようになった。それだけで十分だ」 「さすがだねえ。幸福な王子様は違うねぇ」 「そうさ、僕は幸福な王子さ。そしてお前はツバメだ」  少年はそう言いながら空を仰いだ。見えないけど、明るいのはわかる。  ふと、おでこに何か冷たいものが当てられた。 「おいツバメ、何を置いた」 「おや、ずいぶんと前まで近くにあったものなのにわかんねえのかい」  男は笑った。 「あの、王子様の部屋にあった、金の王子像さ。教会に寄付してただろ?て、教会の神父さんから、その像を返すから王子様の目を治してほしいって依頼されてね」 「……は?」 「はは、ボロボロ丸裸の幸福な王子にはなれなかっみてえだな」  ツバメの気配は、すぐに無くなった。近くには、懐かしの金の王子像があった。  少年は像を手に取った。 冷たいはずの金の像には、ツバメの手の温かさが残っていた。 END
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