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「なあ王子様、『幸福な王子』って話知ってるだろ。宝石がついてて、体中も金箔の王子像が、ツバメに手伝ってもらって、貧乏な人に自分の体の高級品配るやつ。あれ、最後にはボロボロになるけど天国に行けんだよな。あれ、俺好きな話なのよ」
とある政治家が作らせた金の小さな幸福の王子像。
政治家の家の部屋の窓辺に飾られていたそれは、高さ30センチほどの小さなものだったが、オスカーワイルドの幸福の王子のと同じく、目にはサファイア、手に持った剣にはルビーが埋め込まれており、全身も本物の金箔で覆われていた。
政治家が、「幸福の王子のように貧しい人に手を差し伸べてやれる政策を」と言う名目で、自分の富を見せつけるかのごとく作らせた逸品である。
「でさ、俺も見習いたいなあって思ったわけよ。ちょうど今さ、うちの町の孤児院が経営難で潰れそうなんだけどさあ。俺が王子様についてる宝石、その孤児院に届けてやりてえなぁと思ってんのよ。ほら、王子様も困った人助けたいっしょ?天国生きたいっしょ?」
ずいぶんと軽いノリでそんな事を言う声にむかって、王子はたずねた。
「つまり、お前は、ツバメなのか?」
王子の言葉に、その声の主は、首をかしげた。
「え?王子様、もしかして目見えねえの?」
「知らなかったのか?」
王子は小馬鹿にするようにわらってみせた。
「結構巷では僕のことは有名だぞ」
「ああ、そうなんだ。じゃあ改めまして、俺はツバメ。今王子様のいる部屋の窓から声をかけてるぜ」
ツバメは明るく挨拶する。
「いやあ、俺も昔は悪い鳥でねえ、弱い仲間いじめたり、餌独り占めしたりしてたクソだったんっすよ」
「なるほど、それで、そのクソツバメは、人の財産を使って人助けをしたいという都合のよい事を言ってるわけだな」
「うっひゃー、辛辣ッスねえ」
ツバメは動じていない。
「別に大した事ないっしょ。その宝石一つなくなったところで、また新しいのをつけてもらえるっしょ」
「大した事だろう。ツバメ。お前馬鹿なのか」
「へへ、鳥頭なもんで」
ツバメは暴言をはく王子に気を悪くする様子も無かった。
王子は冷たい口調で続ける。
「あのなあ、万が一、お前が孤児院に宝石を届けるとするだろう?しかし、うちでは宝石が無くなったら、必ず盗難届を出すぞ。そうしたら手元に宝石がある孤児院が盗んだと思われてしまう。可哀想に」
「盗難届出せねえように政治家のオヤジに頼んでくれよ」
「僕にできるとでも?」
「出来ねえか。王子様なのにな」
「ふん、王子様、なんて皆勝手に言ってるだけだろう」
王子は少し不機嫌になる。
「だいたい、ほぼ初対面のお前に宝石を届けさせるなんてバカバカしいだろ。お前が宝石を届けずにネコババしちゃう可能性のほうが高い」
「いやぁ、そりゃあ信用してもらうしかないっすねえ。俺がそんな事するように見えます?」
「見えないけど、見える。相当胡散臭い」
「はは、こりゃ参ったな」
ツバメは笑った。
ツバメの胡散臭い笑い声が収まるのを待ってから、王子はニヤリと言った。
「ツバメ、宝石なんかよりもっといい方法があるぞ」
「いい方法?」
ツバメは思わず身を乗り出した。
王子は囁くように言った。
「うちの、政治に使っている判子を渡してやる。孤児院に現金を寄付をするという書類を書いてその判子を押せ」
「……え?」
「何、心配するな。隠し財産が相当ある。全部賄賂に消えるくらいなら、それこそ人助けに使って天国にでも……」
「いやいや、ちょっと待ちなって」
ツバメは慌てた。
「いや、書類偽造推奨してる?」
「窃盗も書類偽造も代わりはしないだろう」
「いや……。つーか、書類偽造、ツバメに出来ると思ってんの?鳥だぜ!?」
「ああ、鳥なら出来ないだろう。でもお前なら出来るだろう?お前は人間なんだから」
王子はニヤリと笑った。
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