翼覆嫗煦

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憧れる 己には無理と 諦める されど見つめる その手を伸ばす 子は、いない。 産むことも、おそらくない。出来ない。 仕事で子どもたちと関わりながらも 何度も言われた。 子どもいないからわかるわけないでしょ、と。 あたしの翼はバキバキに折られてきた。 あたしの羽は傷と共に抜け落ちてきた。 じゃあ、何もできないか? といえば。 ところがどっこい、 傷付かなきゃわかんないこともあるんだなー、これが。 その痛みこそが、あたしの武器だった。 痛いね、でも治るよ、おいで。 あ、これ?これも傷の跡。 でも、なんとかなってるでしょ? あぁ、降ってきたね。 大丈夫、これくらいなら防げるから。 雨が上がったら翔んでいきな。 親のようには出来ない。 そこまで思い上がりもしない。 でも。 何かあったら出来るだけは包んであげよう。 貧弱だけど、分けられるモノはわけてあげよう。 笑ってくれたら、それで充分。 そんな風には思っているの。 あたしができる 翼覆嫗煦(よくふうく)は 通りすがりの雨宿り。 転んだときの一期一会の手当て。 すれ違いざまの頑張ったね、の一言。 包むに至らぬ小さな翼。 ちょっとは凌げる雨や風。 掠ってできたその傷を ふわりと撫でるが関の山。 些細なことしかできないよ。 些細だからこそ大切にしたいの。 あたしが、些細な存在だから。 できれば、自分を包んであげたい。 それができたら、その後は 誰かのことも包めるだろうか。 e5deb654-95b4-4770-9d24-7e022e3ea161 あたし
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