カルサリのよる

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 そうしてあたしは倒れた。ドミノみたいにダダダダダーッと雪崩れて、立ち上がれなかった。  考えてみれば、先輩とのつき合いは半年程度しかなくて、先輩は両親やおねえちゃんみたいに、あたしの人生に最初から存在していたわけじゃない。それなのにどうしてか身体の一部を失くしてしまったように、あたしのすべてが彼を恋しがっていた。  そのひどい喪失感は、いまでもふとしたときにやってくる。  ひとりでぽつんと浮かぶ月。あたし以外の気配のないアパート。夏のはじめの日焼け止めの白い香り――。そうしたなにかに触れたとき、さみしいなんて言葉じゃちっとも届かないくらい、どうしようもなく雪崩れていく。 「なんで、好きでもないひととセックスするんだろうね……」  つぶやくと、飛田林くんは相変わらずの冷めた顔で 「自暴自棄とか性欲とか。あとは、さみしいとかじゃない? 俺にはよくわからないけど」  あの頃のおねえちゃんはそれだった。彼氏に振られてさみしいとか辛いとか、そういうのが溜まりに溜まって弾けてしまった。  家に帰らない日が続いたり、獣っぽい香水の香りが日替わりでプンプンしたり。なにをしているのかなんて、考えなくてもわかってしまった。
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