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「やっ……」
反射的に喉の奥で悲鳴が鳴った。男は「都合わるい?」と訊き返しながら、あたしを見る。
「わかった。気が向いたら呼んで」
冷めた様子でさらりと言われ、かちかちになっていた肩やブランケットを握り締めていた指がするりとほどけた。
よかった。二回目はなさそうだ。
一夜の過ちだって誉められたものじゃないけど、ずるずるセフレになるよりはずっといい。
「待って。なんか、小湊さん誤解してる?」
あからさまに態度を変えたあたしに、今度は男が態度を変えた。訝しそうに下がっていく眉。眉間にはくっきり皺が寄っている。
男はあたしの方にずいっと身を乗り出して
「もしかして、おれと寝たと思ってる?」
その口ぶりから、どうやらそうではないとわかって安堵する。だけど、それはそれで疑問が残る。
「あたし昨日のこと、覚えてないんです……。あの、あなたはだれですか? そういうことがなかったなら、なんであたしパンいちなんですか?」
男の顔がすうっと曇った。白い姿がますます薄れて、向こう側まで透けてしまいそうだった。
「……カルサリ」
土砂降りまえの最初の雨粒のようにつぶやき、男はアパートを後にした。
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