カルサリのよる

6/21
前へ
/22ページ
次へ
「さあ? トントンとか、なんか変なあだ名で呼ばれてた」 「トントン? なにそれ豚?」 「知らないよ」 「正確な名前とか名字は?」 「知らないよ。私は話してないし。ていうか、あんたとずっとふたりで話し込んでたから入り込む余地なし、みたいな。私けっこう彼の顔とか好みだったんだけどね」 「あ、なんかすいません……」  へこへこ謝ると、セリちゃんはあたしのケーキを皿ごと奪った。たしかに彼はセリちゃん好みの生気のない男だった。図体はでっかいのに、なかに宿っているものは脆くて透けてしまいそうな。 「なんでセリちゃんはあたしとあの人が知り合いだと思ったの?」 「高校時代とか、姉がお世話に、とか言ってたから。真央(まお)さん繋がりの知り合いなんじゃない?」 「おねえちゃんの……」  なんだかいやな予感がした。こういう勘ほどよく当たる。 「あ、そうそう。ゼミの奴から色紙(しきし)あずかってきたよ。いいの? 引き受けちゃって」 「だいじょぶ。おねえちゃん、サインくらいならいつでもするって言ってたから」  受け取った色紙は地味に重かった。これを抱えて帰省するのはちょっとげんなりする。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加