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 性行為を終わらせた私とマシュー。マシューは最初こそ不慣れだったが学習能力の高さをみせ、すぐさまその行為を理解した。性行為はどの動物も快楽を感じるものだ。でなければ子孫が絶える。地球外生命体はどうなのだろうかと服を脱ぐ前に考えた。神経系の発達した動物なら交尾によって快感を得ることはある程度可能だと思ったのだ。私の考えは地球外生命体にも当てはまるようで、マシューは快楽を孕んで私の中に欲を吐き出した。快楽を貪るマシューは地球外生命体ではなく欲望に塗れた人間そのものであった。  マシューと黒色に染まったベッドに寝転んでいたときだ。なにか腹に違和感を覚えた。それはこつこつと私の腹の中を小刻みに刺激している。内臓が押し上がる感覚と排泄をしたいという気持ちが私の体内を駆け巡る。そのうち背中にじんわりと冷や汗をかきはじめるのだ。私は這い回る不快感を抱え、ベッドから起き上がる。気怠い体に鞭を打ち、寝室の隣にあるトイレに駆け込んだ。 「マデリン……?」  私の異様な行動にマシューもベッドから起きたようだ。トイレの扉の前からマシューのそんな困惑した声が聞こえてくる。だが私は呻き声をあげながら腹の中の違和感をひねり出す。なにか尖ったものが内臓に引っかかっている感覚を覚えた。異常だ。これはなにかがオカシイ。額に脂汗が滲む。悲鳴を上げながら足を踏ん張る。ふと、なにかがオカシイと考え、真実を知る。内臓を刺激している物体がある場所はどうやら大腸ではなくて子宮、または膣付近にあるのだ。絶望が背中を滑り落ちる。  絶望を感じたその瞬間になにかが私の体内から生まれ落ちた。胎内の異物感が無くなる。ゆっくり便器の中を見てみれば、そこには小さな箱があった。完全な黒色を纏った小さな箱だ。森の中で見た箱(マシュー)のように大きくはない。手のひらサイズのそれだ。ただこれが地球外生命体であることは明白だった。 「マシュー……」 「あぁ! マデリン! 僕たちの子を産んでくれたんだね」  ぱぁぁ、っと笑みを浮かべるマシュー。そう。これが私とマシューの子であることは明瞭であった。私はどうやら地球外生命体を産んでしまったようだ。恐怖を覚えていた。でもその反面、子を成し得て嬉しがる夫の姿を見れたことに涙が溢れてしまった。あぁ、ようやく私は夫との子供を持ち、そして夫を喜ばせることができた。幸せだ。 「僕たちの子供、可愛いね」  私の手の平の中にある黒い箱を見てマシューは笑った。私は小さく頷く。 「うん、可愛い……」
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