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7500ヤード先に一軒だけ家がある。家主のコンラッドは5年ほど前に一人娘を亡くした。コンラッドが娘から目を離した不注意のすえの水難事故であった。妻のリンジーは離婚届を叩きつけ出て行ってしまった。私はコンラッドに私のこの幸福のお裾分けをしたい、と考えた。
私が産んだ黒い箱は先ほどまでの大きさから成長し、ちょうど両手で持てる段ボールサイズになっていた。私はそれをコンラッドの家のポーチに置く。私の産んだこの黒い箱は形を変え、コンラッドの娘、ノアになるだろう。コンラッドもノアも幸せになれる。
私はマシューとふたりで産んだ黒い箱を見つめる。そしてポーチに横たわる子供を撫ぜた。
「コンラッドもこれで生きていけるわ」
「そうだね。僕はマデリンを死ぬまで愛し、支えるように彼もそんな対象を得た」
マタイによる福音書13章24節から43節でイエス・キリストが語った。
イエスは、別のたとえを持ち出して言われた。天の国は次のようにたとえられる。ある人が良い種を畑に蒔いた。人々が眠っている間に、敵が来て、麦の中に毒麦を蒔いて行った。主人は言った。『刈り入れまで、両方とも育つままにしておきなさい』
なぜイエスは毒麦を抜かないのか。その理由は今は毒麦に見えるかもしれないがいずれよい麦になるかもしれない。毒麦が悪く見えるだけで実際はよい麦かもしれない。そのような可能性を考慮しているらしい。
この地球外生命体が毒麦であるかは神以外誰にもわからない。終末のときに神の手によって裁きがつけられるまで私はマシューと暮らす。そしてこの黒い箱は世界の隅々まで、孤独な人間に届けられる。黒い箱は世界を救うのだ。
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