屍商人

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 ジルがルゥルカとして、女王の犬として、まず最初に行った仕事はした大臣を元通りにする事だった。生前、貴族達から金銭を受け取り、国民に重税を強いた男は王家の血を継いでいる事から野放しにされていた。発言力は強いため、まだはあると考えた女王がジルに作り変えろと命じたので、従った。  ある時は無数の屍兵を製造し、戦を勝利へと導いた。またある時はスラムに蔓延る悪を滅する為に屍兵を送り込んだ。  傷付きも死にもしない無敵の兵団は女王の敵を(ほふ)り続けた。  悪という悪に手を染め続けて十四年目。女王はジルを呼んだ。誰もいない王の間で玉座に腰掛けた女王は神妙な顔付きをしていた。 「……ジル」  桜唇(おうしん)から放たれたその名前はジルがずっと呼んで欲しかったものだ。  いつから気が付いていたのだろうか。ジルは静かに女王を見つめた。 「私が君に気付かないとでも?」  ローブで隠しているのに女王はジルの顔が見えているようだ。悪戯が成功した子どものように笑う。 「顔を見せてくれ。屍商人ではなく、アベルの友人として」 「……気付いていないと思っていた」  声が弾みそうになるのを堪えながらジルはローブを脱ぐ。これで屍商人としての決まり事は守らなくてよくなった。せき止めていた言葉が次々と溢れでてくる。 「久しぶりだね。アベル。元気そうで何よりだ」 「ずっと一緒にいただろう」  女王——アベルは顔を覆いながら答えた。 「そうだね。ずっと側で見守っていたよ」 「知っているよ。あの日、君と再開できた事をどれほど私が喜んだか」 「なあ、アベル。アベルのは叶った?」  願い、という言葉にアベルは背筋を伸ばした。赤く腫らした目元が痛々しい目でジルを見つめる。 「もちろん。貴方のお陰でアルトリアスは豊かな国となりました」  アベルではなく、女王として言葉を紡いだ。  ならばジルも友人としてではなく、犬として口を閉ざして頷くだけで答える。 「もうこの国に私は必要ありません。次の王は育っています。彼は立派な王となるでしょう」  ジルは静かに続きを待った。  女王は深く息を吸って、吐き出すと豊かな胸に手を添えた。 「貴方に下す最後の命令があります。私の体を買ってください」  代わりに、と告げられた言葉にジルは喜々として頷いた。
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