屍商人

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 ジルの祖父が亡くなったのは六日前の昼。アルコール中毒者だった祖父は自分よりも格別に若い男に喧嘩を売って殴り殺された。  スラムではよくある死因だし、酔った祖父はジルを殴ったり、集めた金を奪ったりしたので恨みはあれども愛情は皆無だ。  ジルは冷めた目でかつて祖父だった、殴られて全身青紫色となった死体を見下ろした。遺体の処理は塵捨て場に捨てるか、道路に放置して野犬に食わすのがスラムでの常識だがどれも得策とは思えない。 「ルゥルカに売ろうかな……」  無意識に呟いた言葉に、いつの間にか隣で座り込んでいたアベルが同意を示した。 「売れるのなら売ればいいと思うよ。この祖父さんだってジルが死んだらルゥルカに売っ払ってやるっつってたし。俺は大賛成」  スラム街出身ではない癖に、誰よりもスラムに生きる人間のような物言いにジルは苦笑をこぼす。 「で、ルゥルカって誰?」  アベルはジルを見上げた。六歳の時にスラムに流れ着いたアベルにはルゥルカという名前は聞いた事はあっても馴染みはあまりないようだ。  分かりやすく丁寧にルゥルカについて説明しているとアベルは「いいじゃん!」と手を叩いて立ち上がった。 「そうと決まったら早速売りにいこう!」  するとどこからか現れた氷が祖父を包んだ。小屋内の温度が氷点下に変わる。吐く息も白く濁り、垢だらけの肌が寒さのあまり粟立ち始めた。 「相変わらずすごいな……」  腕を摩りながら感心したふうにジルが褒めると照れくさそうにアベルは首裏を掻く。 「これで腐らないだろう」 「本当にどこで学んだんだ? 詠唱なしの魔法って王族様でもできるやつ少ないんだろ?」  アベルは驚いたことに豊潤な魔力を持ち、また魔法の扱いに長けていた。どこでそんな技術を身につけたのか問いただしてもアベルは答えてはくれないが、スラムでは多いだとジルは考えている。 「俺は特別だからな」  胸を張って自慢げに言うのでジルはすかさず同意した。 「確かにな。ここまでの腕ならスラム以外でも生活できるだろうに」 「俺はここが好きなんだ。俺の魔法について、誰にも言わないでくれよ? 厄介ごとはごめんだ」 「分かっているよ。二人だけの秘密だから誰にも言わないさ。こんな凄いことを出来る友達を自慢できないのは残念だけどね」  ジルの褒め言葉にアベルは苦笑を返した。
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