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——殴られた。
そう気付いたのは、視界に広がる緑を見た時だった。スラム街では到底見ることができない自然豊かな光景と殴られた腹部や側頭部の痛み具合から長い間、自分は気絶していたのだとジルは悟った。
血を流しすぎたのか、殴られた衝撃からか意識が朦朧としている。どうにか意識を覚醒させようとした時、臀部に衝撃が走った。
「いっ」
次に背中、最後に後頭部にも衝撃が走る。
衝撃は止むことはなく、次々と襲い掛かるため慌てて体を起こそうとした。
けれど、満身創痍の体は言う事を聞かない。諦めて顔だけ持ち上げることにした。
「ルゥルカ?」
ルゥルカがジルの右足首を掴み、引きずっていた。
「痛いから、引きずらないで」
ジルの懇願が聞こえないのかルゥルカは引きずり続ける。反応を返さない事にムッとしながらジルは再度、体を起こそうとした。
——結果、無理だったので諦めた。引きずられる続ける道を選んだ。
どうやら自分の体を襲う衝撃は石や木の根のようだ。この苦行はいつまで続くのだろうか、とジルが考え始めた頃、ルゥルカは足を止めた。
「ここは?」
またもルゥルカは応えない。ジルをその場に残すと鬱蒼と茂る木々の中、世俗から姿を隠すよう造られた煉瓦の小屋に入っていく。
扉が開けたままになっているので、恐らくジルを招いてくれているのは分かった。
ジルは小屋を目指して這いずった。時間をかけて小屋へ入るとルゥルカの舌打ちが聞こえた。遅かったことに苛立っているようだ。
ごめん、とジルが謝罪を口にする前にルゥルカはジルの襟首を掴み上げ、乱暴な動作で小屋の奥へと引きずっていく。一番奥の窓が一つもない薄暗い小部屋にたどり着いたルゥルカはジルを端へと放り投げると中央に置かれた机の上で袋を逆さまにした。勢いよく上下に振られた袋から人と思わしき物体が滑り落ちた。腐汁に濡れたそれはジルの場所からよく見える。腐乱した肌は青黒く溶けて、もぞもぞと表面が揺れ動いている様や所々空いた穴かうじ虫が顔を覗かせている様が。
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